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ロスト&ファウンド

少し前の話だが、地下鉄に忘れ物をしてしまった。財布を入れたバッグは膝に抱えていたので、無くさないですんだが、それとは別に持ち歩いていた大きな手提げ鞄を、居眠りから覚めて降りるときに置き忘れてしまった。駅を出た時に妙に身軽なことに気がついて慌てて戻ったはいいが、乗っていた電車は折り返し出て行くところだった。

中身が化粧品や服だけだったら、高価なものではないので見つからなくても仕方ないとそのまま家に帰っていたかもしれない。しかし、大事なメガネが入っていたので駅に引き返した。私は、外に出る時はコンタクトレンズを使っているが、いつもそれでは目が疲れるので、家ではメガネをかけている。ど近眼だから、日本でこのメガネに新調したときには一番薄いレンズを買うために結構お金をかけた。このメガネが無くては30センチ先だって見えないので、生活に大きな支障が出る。

駅員室で対応してくれたのは、ハゲがかったでっかい白人のおじさん。手提げ鞄を今さっき出て行った電車に置き忘れたと話すと、彼はパソコンの画面をちらりと見て、「もしかしたら、通過する駅で確認してもらえるかもしれないから、ちょっと待っててね。」と言い、電話の受話器をとった。でも、つながったときに電車はひとつ先の駅を通過してしまっていた。次に、二つ目の駅に掛けると、電車はちょうどプラットフォームに着いた頃だったが、私が長い車両のどこに鞄を置忘れたかを思い出しているうちに発車していまい、結局3つ先の駅で働く駅員も私の鞄らしきものを見つけることはできなかった。

まあしかし、何かと評判が良くない地下鉄会社、「ロンドン・アンダーグラウンド」で勤める職員が、私の手提げ鞄のために3つもの駅に電話を掛けてなんとか見つけようとしてくれたことには驚いた。駅員室に入ったときには、せいぜい「ここの落し物センターに電話して。」とぶっきらぼうに番号を渡されるくらいのことしかしてくれないと思っていたからだ。イギリスの公共機関のサービスって普通はそんなものだ。なので、駅員のおじさんが、「ごめんねぇ。数日したら見つかるかもしれないから、落し物センターに連絡しとくといいよ」と言い、「Lost property」と書かれたパンフレットをくれたときにはちょっと心が温かくなった。

ロンドンの交通機関での落し物をしたとき、遺失物預かり所である「Lost property office」に電話で連絡するか、ウェッブサイトで登録することができる。私は家に帰って早速パソコンを開いた。ウェブサイトでは、落し物の種類、色、無くした日時等、詳細を記入できるようになっており、もしそれらしきものが見つかったときにはEメールを通じて連絡が来るとの説明が書かれていた。
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3週間後、「あなたのものと思われる落し物がみつかりました。」というEメールが届いたので、早速Lost property officeに受け取りに行くことにした。場所は、ベーカーストリート駅の近く。中に入ると、ガラスで囲まれた銀行の窓口のような受付が5つくらい並んでいた。その奥は、事務所のようになっていて職員が電話の応対をしている様子が見えた。受付の女性に照会番号を伝えると、彼女は「ちょっと待っていてね」というしぐさをして、電話でどこかに連絡をした。数分待つと、受付の直ぐ横にある鉄の扉のランプが光かり、上下に開いた口から見覚えのある黒の手提げ鞄が出てきた。受け取り手数料4ポンドを支払い、鞄を受け取った。中身は無くしたときのまま、洋服も化粧道具も、そして大事なメガネも戻ってきた。「ロンドンで、物を無くしても戻ってくるんだ~。」としみじみ思った。

その数週間後、BBCで、Lost property officeが75周年を迎えたとのニュースがテレビで流れた。設立当時からベーカーストリートにある遺失物預かり所の地下にはロンドン中の地下鉄、バス、タクシーなどでの落し物が整理番号をつけられて保管されている。持ち主が現れた場合は、小さなエレベーターで受付のある階に落し物が運ばれる。持ち主が現われず3ヶ月の保管期間が過ぎると落し物は、チャリティー団体等に寄付されるらしい。でも、中には珍しい物もあって、そういったものはベーカーストリートの落し物倉庫に保管されているそうだ。テレビで紹介されていたものでは、ガスマスク、日本刀、昔のダイヤル式の電話などがあった。時代を反映する落し物、「どうしてそんなもの持ち歩いていたの。」と聞きたくなる落し物…。75年の歴史のある倉庫にはいろんなものが保管されている。極めつけは、本物のドクロ。持ち主は、生身の人間かオバケなのか、名乗り出てきた時は是非知りたいものだ。
by ldnshigoto | 2009-12-15 06:14 | 生活と習慣